和歌山地方裁判所 平成2年(わ)463号 判決 1992年10月22日
本籍
和歌山県御坊市島二三七番地
住居
同市島二四七番地
遊技場(パチンコ店)経営
津村カヤ
昭和二年一〇月一日生
右の者に対する相続税法違反、所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官寺本茂夫出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年二月及び罰金六〇〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、和歌山県御坊市湯川町財部六三四番地の五において、「大洋ホール」の屋号で遊技場(パチンコ店)を営むものであるが、
第一 夫の津村清が昭和六〇年一〇月一日に死亡したことによりその全財産を相続したものであるところ、相続財産の一部を除外するなどして相続財産の課税価格を減少させる方法により相続税を免れようと企て、同六一年四月一日、和歌山県御坊市薗四三〇番地の三所在の御坊税務署において、同税務署長に対し、相続税の申告をするに際し、相続財産にかかる課税価格は二億八八三三万五四三一円でこれに対する相続税額は四七二九万六六〇〇円であるにもかかわらず、右津村清が預金していた仮名借名の預貯金や金地金などを相続財産から除外するなどして相続税の課税価格二億〇九九三万二九四九円を過少にし、相続財産の課税価格が七八四〇万二四八二円でこれに対する相続税額が二四七万三五〇〇円である旨の内容虚偽の相続税申告書を提出し、もって、不正の行為により、右相続にかかる正規の相続税額四七二九万六六〇〇円との差額四四八二万三一〇〇円を免れ、
第二 自己の事業にかかる所得税を免れようと企て、前記「大洋ホール」の店長である実弟の米澤唱弘と共謀の上
一 昭和六二年三月一四日、前記御坊税務署において、同税務署長に対し、昭和六一年分の総所得金額は二億一七六九万七八一二円でこれに対する所得税額は一億三八六八万〇五〇〇円であるにもかかわらず、売上の一部を除外するなどの行為により、その所得金額のうち二億一七六九万七八一二円を秘匿し、総所得金額が繰越欠損金九二三万八七二一円を差し引くと零で納付すべき所得税額はない旨の内容虚偽の所得税務署確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、昭和六一年分の正規の所得税額一億三八六八万〇五〇〇円を免れ、
二 同六三年三月一四日、前記御坊税務署において、同税務署長に対し、昭和六二年分の総所得金額は二億〇九八〇万三五〇五円でこれに対する所得税額は一億一七二五万〇四〇〇円であるにもかかわらず、売上の一部を除外するなどの行為により、その所得金額のうち二億〇一六三万〇五八八円を秘匿し、総所得金額が繰越欠損金六七三万二三八一円を差し引くと八一七万二九一七円でこれに対する所得税額が一四五万〇八〇〇円(但し計算誤りのため一四二万八六〇〇円と記載)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、昭和六二年分の正規の所得税額一億一七二五万〇四〇〇円との差額一億一五七九万九六〇〇円を免れ
三 平成元年三月一四日、前記御坊税務署において、同税務署長に対し、昭和六三年分の総所得金額は二億一五一七万一九二六円でこれに対する所得税額は一億一七六八万九二〇〇円であるにもかかわらず、売上の一部を除外したり架空仕入金額を計上するなどの行為により、その所得金額のうち一億九七九三万二二四八円を秘匿し、総所得金額が一七二三万九六七八円でこれに対する所得税額が四六九万四〇〇〇円(但し計算誤りのため四六八万七六〇〇円と記載)である旨の内容虚偽の確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、昭和六三年分の正規の所得税額一億一七六八万九二〇〇円との差額一億一二九九万五二〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示全部の事実について
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書(検乙三五及び三六号)
一 被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書(検乙一二、一五及び一九号)
一 証人米澤唱弘の当公判廷における供述
一 片山統及び米澤唱弘(検甲三〇一号)の検察官に対する各供述書
一 中村幸男、中村豊、上山隆史、三上保(検甲二六九号)、鵜澤ヤスエ、溝端フクエ及び米澤唱弘(検甲二九三号、ただし問六、問七、問一一及び問一三を除く)の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 大蔵事務官作成の査察官調査書(検甲八四号)及び写真撮影てん末書(二通)
一 検察事務官作成の報告書
判示第一の事実について
一 被告人の検察官に対する供述調書(検乙三七号)
一 被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書(検乙三ないし九号)
一 大川瀁、堀秀樹、井上タツエ、三上保(検甲二六三号)、津村要次郎、川崎和子及び花田八重子の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 御坊税務署長作成の証明書(検甲三ないし七号)
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(検甲二号)及び査察官調査書(検甲八ないし三五号)
一 御坊市長(検甲三六、三八及び四三号)、日高町長(二通)、和歌山市長、由良町長及び南部町長作成の各戸籍謄本
一 御坊市長作成の除籍謄本四通
一 御坊市長作成の原戸籍謄本二通
判示第二の事実全部について
一 被告人の検察官に対する供述調書(検乙三八ないし四一号)
一 被告人の大蔵事務官に対する供述調書(検乙一〇、一一、一三、一四、一六ないし一八及び二〇ないし三四号)
一 米澤唱弘の検察官に対する供述調書(検甲三〇三及び三〇四号、ただし、検乙三〇四号については四丁表裏を除く)
一 中平京子(二通)、津村明美(三通)、米澤信子、林茂男、西田義信、津野秀代、土屋安弘、白井秀樹、山川喬、山内由一及び米澤唱弘(検甲二九四ないし三〇〇号、ただし、検甲二九四号については問三を、検甲二九七号については問四を除く)の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 御坊税務署長作成の証明書(検甲五四、二五六及び二五七号)
一 大蔵事務官作成の査察官調査書(検甲五八ないし八三及び八五ないし二四七号)、現金預金有価証券等現在高確認書及び現金預金有価証券等現在高検査てん末書(五通)
一 押収してあるノート五冊(平成四年押第二八号の一ないし四及び八)、売上メーター票綴四綴(同押号の五)、領収証請求書等一束一つ(同押号の六)及び六三年度決算書と題するメモ二枚(同押号の七)
判示第二の一の事実について
一 御坊税務署長作成の証明書(検甲五五号)
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(検甲五一号)
判示第二の二の事実について
一 御坊税務署長作成の証明書(検甲五六号)
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(検甲五二号)
判示第二の三の事実について
一 御坊税務署長作成の証明書(検甲五七号)
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(検甲五三号)
(法令の適用)
被告人の判示第一の所為は相続税法六八条一項、二項に、判示第二の各所為はいずれも刑法六〇条、所得税法二三八条一項、二項にそれぞれ該当するところ、情状によりいずれも所定刑中懲役刑及び罰金刑を併科し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年二月及び罰金六〇〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとする。
(量刑の理由)
脱税事犯は、国民の健全な納税意欲を著しく損なうものであって社会に及ぼす悪影響の著しい犯罪であるところ、本件は判示のように、相続税四四八二万三一〇〇円及び三年度にわたる所得税三億六七四七万五三〇〇円の合計四億一二二九万八四〇〇円の税金を相続財産除外、売上除外、架空仕入れ計上等の方法によって免れたという事案であって、その脱税総額が四億を超える多額なものであるうえ、ほ脱率も全体で九七・九五パーセントに達する高率なものであることからすれば、被告人に特に酌むべき情状が認められないかぎり、懲役刑の実刑は免れない事案である。
ところで、本件においては、被告人の義兄や実弟あるいは税務処理を任せていた者等が被告人の脱税を助長していた面があり、ひとり被告人のみが率先して脱税を行っていたものではなく、また、所得税の脱税は、被告人の夫が従前から行っていたもので、被告人において新たに始めたものではないけれども、相続税については、被告人は自ら積極的に相続財産の一部を隠匿しており、また、所得税についても、被告人は夫が生前売上除外等の方法で脱税していたことを十分知っていて、実弟に対し夫と同様の方法での脱税を指示したり、自ら架空名義預金口座を新たに設けたり、さらには税務処理を任せていた者の作成した納税申告額を更に減額するように実弟ともども指示するなど自らも積極的に関与していることや脱税を諌める者があったにもかかわらずこれに耳を貸さずに継続していたことからすれば、前記の情状は格別酌むべきものとは考えられず、これに、本件発覚後、被告人は本件違反に伴う修正本税、重加算税等をすべて完納していることや反省状況を十分斟酌しても、刑の執行を猶予するのを相当する事案とはいえない。
ただし、その刑期及び罰金額については、右の有利な事情を考慮し、主文掲記程度に止めることとする。
(裁判長裁判官 瀧川義道 裁判官 荒木弘之 裁判官 新谷晋司)